スカイジャンボリーの前日である8月21日。長崎から離れた兵庫県は甲子園球場で歴史的かつ劇的なドラマが日本中を湧かせた。沖縄県代表の興南高校が第92回全国高校野球選手権大会で優勝旗を手にしたのである。深紅の優勝旗を初めて沖縄に持ち返る興南、さらに春夏連覇を果たし、勢いを感じさせる彼らの活躍に背中を押されたと笑顔で話すバンドがこのスカイジャンボリーのステージにオープニングアクトとして立った。その名もFLiP。沖縄発信のガールズバンドだ。 「よろしくーーーーっ!」と大きな声を響かせ、重厚なビートを稲佐山に轟かせる。ステージにあがってきた際の「かわいらしい女のコ4人組」という印象を一蹴。骨太でブレのない玉城裕未のドラムと宮城佐野香のベースが鳴らすビートとハートを騒がせる長堂祐子のギターの旋律、そして高音も低音もビシビシと響かせるVo&Gの渡名喜幸子の歌声。その重厚な音にド肝を抜かれてしまった。彼女たちのことを知らなかったであろうオーディエンスもそのロック魂を感じたのか「これは!?」とばかりに次々に山の斜面からスタンディングエリアへと駆ける。どこか日本古来の民謡とガレージパンクとを融合させたような『かごめかごめ』のメロディはライブが始まるなり、会場に熱いグルーヴを生み、ステージ前では円陣になってステップを踏む観客の姿も。地に足をつけている場合ではないゾ、と言わんばかりのパワフルな彼女たちの歌によって。踊らずにはいられない。スカジャンは開演前のオープニングアクトでも“踊らせる”のだ。続く2曲目は疾走するベースラインが印象的な『ライラ』。四つ打ちドラムで鳴るリズムにスカジャン名物の“天然スモーク”こと砂塵が舞いだす。まだ12時を前にしながら、例年以上の暑さを感じさせる稲佐山の気温はFLiPのライブでますます熱をあげていく。 「長崎のスカイジャンボリー、初出演ですよ!ありがとうございまーーーす!」と幸子が大きく手をあげる。「みなさん、元気にしとっと?元気に元気に楽しんでいってください!」と続けると歓声が湧いた。愛がテーマのこのイベントにロックへの愛で応えるように新曲『カザーナ』が鳴り出し、エッジの効いたギターの音が切り込むと、歌詞の熱さと相俟ってモッシュピットは騒がせる。さらに『恋ならば』を歌いあげた彼女たちは「ラストー!」と一声あげ、『VANZAI VANZAI』のヘヴィな音で稲佐山を揺さぶるほどのぶっといビートを轟かせ、オーディエンスを興奮の渦に巻き込む。“会場を温める”なんて生温いバンドをスカジャンは用意していない。やはり始まりから熱く観客を燃やすバンドでイベントのはじまりを告げるのだということを改めて感じさせた、そんなステージだった。 |
万華鏡のように楽曲によって感じさせる音像が違うandropの最初の一曲は『Colorful』。彼らの楽曲の魅力を宇宙大爆発のビッグバンさながらにダイナミックに放つような印象のダンスロック・チューンだ。軽快なダンスビートを刻むドラムとベースにギターのカッティングのリフ、そしてタイトル通りにカラフルなメロディが稲佐山という空間に響き、楽曲の中で音が展開していくたびに景色が変わっていくような感覚になる。独特の節と、掴めたと思った瞬間にスルリと手をすり抜けていくような予測不能に展開していく楽曲に心が躍る。もっと、もっとと音を欲してしまうOK。ああ、1曲目からandropに取り込まれてしまった。同じように感じた観客は多かったのか。いつしかステージ前にはオーディエンスが鈴なりになっていた。そして楽曲の浮遊感に体ごと空へ上がってしまいそうな『Nam(a)e』へ。柔らかなボーカルが空へと昇っていく中、軽やかにステップを踏み、音を楽しむオーディエンスの姿に、ステージのメンバーも表情を和らげる。そして長崎の夏の空にぴったりとハマった『Glider』は畳みかける序盤の音に伸びやかな中盤のメロディ、そしてサビでは緩やかな曲線を描いて飛翔している姿が浮かんできそう。会場のどこからかふわりふわりとシャボン玉が飛んできた。まるでこの曲を待っていたかのようなタイミングで、より鮮烈に『Glider』が心に焼き付いていくのを感じる。そして『Roots』へ。軽やかなロックンロールビートで綴られる疾走感のあるこの曲が暑さがじわじわと増していく稲佐山は爽やかな風を思わせ、夏の清々しさを彷彿とさせる。メロディックなこの曲に続くのは『Traveler』だ。日々歩む一歩一歩を思わせる鼓動のように響くビートが優しく広がっていく中、自然とステージに手を伸ばすオーディエンス。andropの歌は確かにスカジャンに集まった人たちに届いていることを感じさせる場面だった。 「どうもありがとうございました」とたった一言告げて『Image word』へ。ミディアムテンポのナンバーで人間味に溢れた歌を聴かせた彼らがスカジャンのステージに立っていたのはたった25分。それこそ“たったの”6曲で、これほどまでに様々に景色を彩り、音が見せる姿、音像を掴みきれないバンドというのも稀有の存在ではないだろうか。キラキラと次の瞬間にはどんな模様を見せるかわからない、万華鏡を覗いている子どもように、観客に瞬間、瞬間を楽しませてくれたandropは新たな音楽の楽しみ方を教えてくれた気がした。そんな彼ら。「実は野外フェスに出演するのが初めてだったんです」とのこと。「みなさんが温かく迎えてくれたのが本当に嬉しかったです。また長崎に来たいです」と笑顔を見せてくれた。稲佐山のオーディエンスが彼らに魅了されたのと同じく、彼らも長崎の観客に魅了され、ライブ愛を深めたのだった。 |