the HIATUS

 稲佐山と共に呼吸をするように。森の木々がさざめかせる音に寄りそうように。静かに鳴りだした『Snowflakes』で始まったthe HIATUSのライブ。細美武士はギターを掻き鳴らしながら、すっかり夜に包まれた会場を見渡す。彼の隣ではmasasucksがエモーショナルなギターリフを奏で、さらにその隣に立つウエノコウジが山肌を揺さぶるベースのフレーズを届ける。そしてキーボードの堀江博久が色彩感に富んだメロディをつまびき、ドラムの柏倉隆史が生命力溢れるリズムを叩きだすこの日のthe HIATUS。ライブは続く『The Flare』へ。ゆらめく炎を表す言葉をタイトルに戴くこの曲は“名は体を表す”の文言通りの、炎を熱を受けたような熱さを宿す1曲。楽器から山肌へなだれ込むように響く音という音が起こす圧倒的なハモニクスに、オーディエンスは大きく手をあげて応える。そんな魂を熱くした曲に続いたのは体を熱くする『Monkeys』。ステージに向けて振られる無数の拳が風を巻き起こし、モッシュエリアで渦を巻く強烈なグルーヴが生み出す熱気で稲佐山が揺れた。「こんばんわ。the HIATUSです。天国みたいな時間はきっとあるって、オレは信じてる」
 『Bittersweet / Hatching Mayflies』が響く。稲佐山を囲む木々の中へと染みわたっていくようなミディアムチューン。細美のファルセットがオーディエンスを包み込んでいく。繊細に紡がれていく音が感情の高まりを呼び、静かな曲にも関わらず全身が躍動していくのを感じる、そんなナンバーだ。
 5曲目は昨年の矢野顕子との2人セットのステージでも歌われた『西門の昧爽』。すっかり夜の暗闇に覆われた稲佐山。虫の声も耳に届く中でひとつひとつ言葉が届けられる。山肌で見守るオーディエンスへ、携帯の画面をステージに向けるように呼び掛ける細美。すると無数の小さな光が灯った。星空が近くにあるような景色にステージのメンバーたちも微笑む。
 「今日は本当にありがとう。ふみおさんが帰ってきたりさ。有森さんも見たかっただろうな。どこかで見てるんじゃないかな」と細美。本当にそう感じる。今、この瞬間を。きっと有森さんは会場で見ているんじゃないかな、と。だって彼が愛した稲佐山。彼が愛したスカジャン。そして彼の愛した音楽が、こんなに幸せな場所を作っているんだから。そして『The Ivy』へ。音という音が溢れだす。止め処なく流れ出す、そんな印象を覚える1曲は怒涛の感情の波で構築されたかのように会場を席巻していく。7曲目は『ベテルギウスの灯』。エモーショナルに絡み合う2本のギター、そして鼓動を鼓舞するビートに美しく響く鍵盤の音色がthe HIATUSならではの波動を生み、オーディエンスが跳ねる。ラストは『Insomnia』。感情という感情。感覚という感覚の全てを飲み込んでいきそうなほどの生命力のあるこの曲を、全身全霊で堪能する稲佐山の気持ちがひとつになる。“one pray in Nagasaki”。毎年、つけられるスカジャンの、今年のサブタイトルだ。ただひとつの祈り。音楽が繋ぐ祈りが。願いが。稲佐山をいっぱいにしたのを、確かに感じた。そんなライブだった。
 アンコールで『紺碧の夜に』を演奏したthe HIATUSのメンバーの表情は満面の笑み。それを見つめていた観客と、同じくステージ袖に集結していたスタッフ、出演者たちも。そんな気持ちに応えるように、早朝の豪雨が嘘のように空には星が見えていた。“満天の星空”とまではいかなくても。見上げた夜空に星が見えたとき。「有森さん、ありがとう」と思った。こんな素敵な場所を作ってくれて。
 こんな笑顔に包まれたイベントを遺してくれて。細美も言った。「続けて行きたいな」と。
 長崎Sky Jamboreeはこれからもずっと多くの想いを内包して、愛情いっぱいの場所であり続けてくれることを、“祈る”!

photo

photo

photo

photo

photo

photo

photo

top ページのTOPへ