くるり

 2017年のSky Jamboreeも早いもので半分が終了、ここから後半戦に入る。その先陣を切るのは、スタッフ陣が長年ラブコールを送り続けたというこのバンド、開催19年目にしての初出演! 昨年結成20周年を迎えた、くるりである。沸々と、興奮と期待が高まるばかりの会場内に響いた岸田繁(Vo.&Gt.)の第一声は、 「長崎弁で云うところの、ばりぬくか〜」 だった。絶妙な抜け具合の“ぬくか〜”に歓迎の歓声と笑いが上がる。

「ドラゴン花火のようなバンドですんで、よろしくお願いします。
初出場でございます、くるりでございます……はじめさせていただきます」

 空恐ろしいばかりの謙虚さで幕を開けたその1曲目は『Morning Paper』。イントロのヘヴィーなギターリフからのバンド・インで、岸田、佐藤征史(B.)、クリフ・アーモンド(Dr.)が中央で組むトライアングルが、目前に迫るかの如く大きくなる。身体を震わす音の鳴り、繰り出される破格のうねりと強烈な“ロックンロール・バンド感”に呑み込まれる感覚に、オーディエンスの熱も一気に上昇するのがわかる。転調のたびに大きくうねる獰猛なグルーヴは能動的で、私たち観客はその波に心身共にかっさらわれ翻弄されながら、同時に波に向かい声を上げ腕を振り上げ手足を踊らせて飛び込んでいきたい衝動に駆られていく。その快感は何度味わっても本当に代え難い。続く『everybody feels the same』では、疾風迅雷のアンサンブルがフル・スロットル、この夏よりライブに復帰したファンファン(Tp.&Vo.)のトランペットが導く遠い異国へのサウンドスケープをクライマックスに、目眩くような凄まじいドライブ感で駆け抜ける。クリフも含め松本大樹(G.)、野崎泰弘(Key.)という近年のアルバム再現ツアーを共にしているメンバーでの布陣は、どこまでも有機的で作用的で、だから肉体への訴求力が異様に高い。音に漲るテンションもまた然り。

 MCでは「テナーのホリエくんから“よかフェスがある”と以前から聞いていました」とニンマリ、緩めの岸田節が健在。
「“長崎は今日も雨だった”というフレーズがこびりついておりますが……今日は素晴らしい晴天で(微笑)。いい思い出になることでしょう」
「では疲れたんで私、ハンドマイクで行かせていただきます……あ、その前にメンバー紹介を」
 快晴の長崎とメンバーをさらりと称え、ギターを置いてマイクを手にした岸田の指揮の下、始まったのはヒップホップ的アプローチが異色に光る『琥珀色の街、上海蟹の朝』。たゆたうメロディーと岸田×ファンファンのハーモニーの湛える不可思議な異国情緒が、なんとも美しく、とてつもなく心地よい。“ナガサキ、ビューティフル・シティー”のフレーズが中空に舞い、共に舞い上げられて踊るオーディエンスは、ピース・サインならぬ蟹バサミ・サインを掲げている。さらに『Liberty & Gravity』が連れ出してくれたのは、東欧から中央アジア、ロシア、日本へと大陸を横断するような、芳しく豊かな音の旅。無国籍に、縦横無尽に自らの音楽を発展させてきたくるりらしい、また《音楽フェスティバル》にこれほど相応しいものもないであろう、躍動と昂揚、歓喜に満ち溢れた素晴らしいアンサンブル。踊る者あり、ゆらゆらと音に身を任せる者あり、喝采を送る者あり……ライブエリアも芝生エリアも総じて自由に、想像的に、音楽そのものを楽しんだ時間であった。
 
 そして、ラストの『ロックンロール』は圧巻だった。今度はオーディエンスが一体となってビートに乗る。この抜けそうに澄みきった青空の下、逞しく豊潤な大地を思わせるリズムはなおプリミティブで、メロディーはゆるやかに転がり続ける。目の前にロックンロール・ロードが拓けていき、その景色は永遠に続いていくように思われる−−バンドのダイナミズムを長崎の青空へ爆発させたクライマックスで抱いた衝動は、それぞれの胸の中できっと幾度でも蘇ることだろう。


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くるり
Set List

M1. Morning Paper
M2. everybody feels the same
M3. 琥珀色の街、上海蟹の朝
M4. Liverty & Gravity
M5. ロックンロール

photograph by Yuki KATSUMURA

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