GRAPEVINE

 稲佐山の上空を覆っていた雲の色が少しばかり薄くなってきて、ところどころから明るさを取り戻し始めてきた中に、登場したのは長崎Sky Jamboree初登場のGRAPEVINE。昼さがりを思わせる優しい音がハートフルに響く『真昼の子供たち』から彼らのライブはスタート。そういえばこの曲の歌詞には“雨なんて降るはずがない”って言葉があるな…と考えながら、紡がれる音に身をゆだねて空を見上げた。もう雨の心配は皆無の長崎の空に、吸いこまれるように音が昇っていく。シンプルな音が会場の空気を変えたけれど、それは“音を楽しむ”という根底にあるものはそのままに、耳を傾ける、という楽しみ方へと移行していった、そんな感覚。ラウドに轟いていた音からピースフルな時間へ。いつのまにか稲佐山には「え?こんなにいたの!?」と思うほどのトンボが飛び交い、蝉の声も田中和将の声にコーラスを加えていく印象。そんな自然の中を躍る歌声が印象的だったナンバーに続いたのは1999年に発売された珠玉の名曲『スロウ』。金戸覚のベースラインが歌うように響き、緩やかに紡がれる田中のギターとエモーショナルに鳴らされる西川弘剛のギターの旋律が絡み合い、山肌に染み込んでいく。サビの胸に迫るようなメロディが刺さり、派手に轟くわけではないけれどパワーに満ちた叙情的なロックンロールが会場に静かに熱を充満させていく。
 「このフェスは“はじめまして”です。今後ともよろしくお願いします」と微笑み混じりに田中が口を開くと、会場からは温かな拍手が沸く。「今日は唯一、ゆっくりした曲ばっかりやるバンドなので。よろしくお願いします」と続け、ドラムの亀井亨のカウントが耳に届く。こうして静かに『風待ち』が始まった。10年前に発売された曲なのに、少しも色褪せることなく、今も景色に溶け込み、聴く者の思い出を呼び覚ます。そんなエバーグリーンな一曲に、1万人が耳を傾け、その心地よさを噛みしめているのを感じる。鼓動に近い速度で叩き出されるビートに、独特の抑揚を持つ田中のメロディが重なり、サビではソウルフルに変化をしていくミディアムなロックチューンが稲佐山を包み込んでいく。
 ギター、ベース、ドラムの音が溢れだしてグルーヴすると、色彩感豊かに発色していく『光について』へ。感情をあらわにしたかのようなサビであちこちから拳があがる。全身全霊でスカジャンを楽しむオーディエンスは、GRAPEVINEの渾身のステージングに、やはり全身で応えるんだ、と改めて感じた。会場からの熱を感じたのか、田中の歌声によりエモーショナルな色が濃くなっていったように思った。海からの潮風と、山からの緑の匂いのする風とが時折、吹き抜けていく稲佐山に、GRAPEVINEが最後に届けたのは『風の歌』。一音、一音を長崎Sky Jamboreeに刻みつけるように力強く鳴らしていくメンバーたちはじっと会場全体を見つめていた。その視線に応えるように、同じくじっとステージを見つめるオーディエンス。視線と視線とで熱く交信し、音が届いたことを確かめ合った、そんなふつふつと胸に熱が灯るライブだった。

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サンボマスター

 モッシュエリアに雪崩れ込むオーディエンスと共に熱が渦を巻く。熱気と歓声に迎えられたサンボマスター。ゴダイゴの『モンキーマジック』のSEから「Oi!Oi!Oi!」とオーディエンスはジャンプして興奮を伝える。そんなステージに登場した3人の熱い男たちは会場を見渡した。山口隆が叫ぶ。「今年の夏で一番すげぇやつをやりに来たんだよー!! お待たせしました。ロックンロールの時間です!!」と。
 そんなサンボマスターの1曲目は『青春狂騒曲』。「盛り上がらなかったら、山、降りさせないからなー!」と強烈な煽りをはしばしに挟み込みながら、人間味に溢れたロックンロールが掻き鳴らされ、モッシュエリアのみならず後方でステージを見つめる観客も、隅の隅まで手を挙げて軽快なビートに跳ねる。きっとこれを“一体になった”と言うんだ!「宇宙一のロックをやりましょうねー!!」と声をあげた山口の声を合図に木内泰史のドラムがカウントを入れて『世界をかえさせておくれよ』が鳴り響くと、ステージから押し寄せるパワーに堪え切れなくなったオーディエンスがモッシュエリアに集結する。大合唱が沸き起こり、熱気が渦となってステージの前から溢れだしていた。
 「オレの故郷はよ、故郷だけじゃない、日本中が大変なことになってる。オレ、一曲作ったからよ。オレはこれから故郷のことを想って歌う。だからみんなは自分の故郷のことを想ってくれ」と山口が語り、響いたのは猪苗代湖ズの歌『I love you & I need you ふくしま』。近藤洋一のベースラインが会場中から生まれる1万人の歌声を温かく包み込むようにビートを紡ぐ。感極まる山口へ大きなクラップの音が応えていた。
 「オレはテレビの悲しい報道より君たちのことを信じるんだ。君たちを信じていいかい?誰が笑おうと愛と平和とロックンロールを歌いに来たんだー!」。その言葉に稲佐山の観客は一斉に拳をあげ、風を起こすほどの勢いでステージに向けて応える。振られるその拳の熱に今度は山口が煽られて、歌声はどんどん彼の感情が熱を帯びていく。そしてラストは『できっこないをやらなくちゃ』。隠すことなく、臆することなく、想いを綴り放つ彼らの意思を宿す1曲は、オーディエンスの全身へと打ちつけられていく。力強い想いが心に宿る。その声がどれだけの人に響いたか。答えは稲佐山を震わせる大合唱と、そして山の上の上まで、立ちあがり、手を挙げる観客の姿が照明していた。世界に誇れる強い心を持つ日本の魂はここに確かに強い光となっていたのだった。
 「お客さんに助けられ、メンバーにも助けられたライブでしたね。山の上の上まで手をあげてくれているのが見えて、すげー感動しました」とステージを降りた山口は言う。「5年ぶりに出してもらって。お客さんの感じがドワァーっとなってました。感動しました。だから力の限りを作りました。お客さんも僕らのライブに集中してくれているのがわかりましたね。ずっとライブを見てくれていました。とにかく感動しました」と。熱い心を稲佐山に刻んだサンボマスターのこの日のステージは、オーディエンスのハートに消えない火を灯した、そんなライブだった。

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